たとえば、ビッグバンで宇宙が生まれたとき、物質と反物質が同じ量発生したはずで、現在観測される物質だけの宇宙では、対象性が壊れている、という。CP対称性の破れともいうらしい。Cは物質、反物質、Pはパリティで数学的な座標変換のことだ。要約すれば、数式では宇宙は対称になっているはずだ、なぜ自然は数式のとおりにならない? ということだ。
でも、これはもともとがおかしい。
CP対称性はベータ崩壊では破れていることが知られている。1957年にアメリカの中国系物理学者、呉健雄が実験で確かめた。低温にしたコバルト60に磁場をかけ、ベータ崩壊で生じる電子の方向を観測したのだ。パリティが対称なら、ベータ崩壊で出てくる電子は、方向が対称になるはずだ。ところが呉健雄の実験では、わずかに対称性が崩れていることがわかった。
コバルト60は安定同位体のコバルト59に中性子を照射して作られる。コバルト60はベータ崩壊してニッケル60に変化する。
Co60 -> Ni60 + e + γ
このとき、放出される電子は0.318 MeV、ガンマ線は1.17 MeVと1.33 MeVの2種類だ。wikiにはニュートリノが書いていないが、ニュートリノも放出されているはずだ。SEAMではベータ崩壊はニュートリノの入射により結合電子=中間子がはじき出される現象だからだ。
その前のコバルト59に中性子が放射されコバルト60になる過程を考えてみる。
コバルト59に中性子をぶつけると、中性子が持っていた電子と陽子同士が衝突で生じた電子(陽電子は出て行く)が結合のために使われる。このとき、元からある電子と衝突で生まれた電子のエネルギーが異なるのだ。これはあとでからコバルト60のベータ崩壊に続くγ崩壊での2種類のガンマ線の違いになる。
呉健雄の実験ではコバルト60を低温にして磁場をかけた。これは原子の振動を抑え、原子核の向きをそろえたことになる。そこで起きるニュートリノの入射によるベータ崩壊は、結合した2個の電子のどちらかをはじき出す。はじき出される方向は、原子核の向きがそろえられているため、2つに分かれるが、結合している電子のエネルギーが異なるため、はじき出される電子の数が違ってくる。
つまり、呉健雄の実験はCP対称性を見たのではなく、原子核の結合状態を調べたことになる。CP対称性とは無関係なのだ。むしろ、対称性という概念自体が原子にはないのだ。強い相互作用と電磁相互作用にはCP対称性があるというが、磁界と電界の関係を見ても対称ではないことがわかる。
以前にも書いたが、数学の概念で自然を見ることは、19世紀に流行していたピグマリオン症だ。自然にはもともと対称性はないのだ。