« Kindleが3ヶ月間99円 | 最初地球に放電したのは水星 » |
30年ほど前、「学校は考えない訓練をする」と言っても誰も本気にしなかった。ところが10年位前から事情が変わってきて、ネット上には学校教育の弊害を訴える書込みが増えた。現在でもこのような学校有害論は少数派だと思うが、それでも30年前から比べると同じ考えを抱く人が増えたのは少しだけうれしい。機会があるごとに、あちこちに書き込んできた影響があったのだろうかと思うときがある。人間の考えは変わるのではなく、古い考えを持った人が死に絶え、新たに人が成長してくることで社会は変わるのだと、最近実感するようになった。
脳の成長は成人する前にほとんど完了していると言われている。動作を覚える期間、言語を覚える期間は脳の成長と関係していて、その期間を過ぎると覚えることが難しくなる。人間の思考は高度な機能なので、成人してからも変える事が出来るのではないかと思えるが、実際には難しい。思考もまた適切な期間に訓練が必要らしい。
筆者は暗記が非常に苦手だった。算数の試験でも公式を覚えたことはなく、試験ではそのつど公式を導いて問題を解いていた。だからいつも回答するのが遅く、時間いっぱいかかっていた。高校のときある問題を勝手にベクトルを使って解いたら×がついてきた。解き方が違う、学校では教えていないので正解にはならなかったのだ。
試験問題には独特の文法があって、問題文を「正しく」読み解かなければ回答できない。いわゆる試験テクニックだが、筆者は空気を読んだことがないので、ときどきまったく違う解釈をして正解できなかった。とくに国語の試験は苦手で、間違いが多かった。
ところで人間の視覚には不思議な現象がある。網膜の一部が死ぬとそこは黒くなって視野が欠けていることが分かる。しかし、時間が経つと視野の欠けた部分を脳が補って、黒い部分が消えてしまうことがある。網膜が再生したのではなく、欠けた部分を脳内の視野から削除したのだ。黒い部分は無意識に追いやられて意識できなくなる。視野の一部が見えないことには変わりないのだが、意識できなくなってしまう。
人間は意識できないことは認識することが出来ない。このことは視覚だけではなく思考でも現れる。たとえば、ニュートンの万有引力は中学生で教えられる。学校では万有引力はない、なんて絶対に教えないので、受験勉強に必要な知識として丸暗記してしまう。万有引力が物理現象を理解する根底に据えられてしまうわけだ。ニュートンがどのように万有引力を思いついたか。当時の科学界に受け入れられるには100年かかった。などという情報は決して与えられることがない。
誰も万有引力がなぜ科学として常識になったかという経緯を知らない。知らないということは存在しないと同じだ。また、記憶力がよく、思考が良く働くと自己の思考の正当性についても、自動的に考えてしまう。学者には秀才が多い。現在の科学者、物理学者の多くは、網膜の一部を欠いた視野で物理現象を見ているのだ。筆者のように基本的な物理法則まで遡って考えることはめったにしないらしい。
学校が考えない訓練をしているということを言い始めて30年経った。ようやく理解者が増えてきた。物理学の間違いに多くの人が気がつくのはもう少し時間がかかりそうだ。