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現在考えられている量子コンピューターには、大きく分けると2つのタイプがあります。ひとつは量子エンタグルメントという量子力学の仕組みを使った非常に速く動作するコンピューターです。量子エンタグルメントー量子もつれは、2つの粒子が、もつれの関係にある時、片方のスピンがわかれば、もういっぽうのスピンも瞬時にわかると言うものです。粒子同士がどんなに離れていても、もつれ状態にある粒子のスピンはわかるので、超光速で計算が出来る可能性があります。しかし、このタイプの量子コンピューターはまだ実現されていません。
もうひとつは、行列計算と線型方程式が同じ結果をもたらすという量子力学で得られた数学上の特性です。1920年代に量子力学が考えられていた時、ハイゼンベルクが原子内部の電子を行列式で計算しました。行列式は複数の計算を行うための計算方法です。ハイゼンベルクの行列式が作られた後、すぐにシュレディンガーが同じ電子の計算方法を線型方程式で考えました。線型方程式とは1回の計算で一つの答えが出る計算方法です。じつは、ハイゼンベルクの行列式とシュレディンガーの方程式は、どちらも正しくて、同じ結果を表すことがわかりました。
行列式の計算は、たくさん計算を行う必要がありますが、シュレディンガー方程式は1回の計算で済みます。現在使われているコンピューターは、一度に1回しか計算できません。正確に言えば、コンピューター内部では情報の単位が8ビットです。64ビットCPUでは情報を8個まとめて計算しています。これだけでも初期のコンピューターから見れば速いのですが、量子コンピューターは何百倍もの8ビットを一つにまとめ、1回で計算することが出来ます。これが量子コンピューターの計算が速いと言われる理由です。
しかし、この方式の量子コンピューターはたくさんのビットを1度に計算する半導体部分が、線型方程式に相当するため、特殊な設計が行われます。そのため、計算できる情報に得意不得意がでてきます。すべての計算に向いているわけではないのです。現在では、この部分を従来のコンピューターを使いソフト的に処理する量子コンピューターも提案されています。
量子コンピューターと言っても、いま実現されているのは、数学の行列式と線型方程式の関係を使ったもので、その肝心な計算する部分はアナログ式と言えるものです。なぜ、このような量子力学とは本質的に関係のない計算方法を「量子コンピュータ」と言ってもてはやすのでしょうか?
じつはスーパーコンピュータが開発される過程で、パイプライン処理が実装されてきました。CPUの演算器で計算させる前に、バッファ内部でデータを並べ替え、より高速で処理できるようにする方法です。パイプラインは現在では普通のCPUにも取り入れられていて、家庭用コンピュータをかつてのスーパーコンピュータ並みの速度にしています。パイプラインと64ビット方式による速度アップは限界に近付いたと言えます。それで、一度に8ビット x 16の演算を行える128ビットCPUも考えられていますが、どうせならもっとたくさん処理できないかと考えた結果が量子コンピューターだったわけです。これは多ビット処理CPUと言ったほうが適切ですが、おそらく量子という言葉をつけておくと、予算をたくさんもらえるといったメリットを狙ったものでしょう。量子力学の間違いが世間に知られていけば、このような妙な呼び方はなくなるはずです。