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パーマ屋ゆんた
September 29th, 2010夜寝ているときはいつもラジオを聴いている。8月になってNHKのラジオ深夜便では、ビギンの『パーマ屋ゆんた』が毎晩聴こえていた。最初は何気なく聴いていたのだけれども、「明日は内地に行くんでしょ」で始まる歌詞を聞いていくうちに歌の光景が、うつらうつらと浮かんできた。
どうやら、女子高生が学校に受かって、島から離れる前の日に髪を切りにパーマ屋にやってきた。赤ん坊のころから切っているパーマ屋のおばちゃんが、髪を切りながら、女子高生に語りかけている。内容は思い出話とも人生訓とも取れる話なのだ。たぶん椅子が2つしかない古いパーマ屋の店の中で、ライトで照らし出された女の子が座っている。
歌の主人公は、明らかに女子高生。おばちゃんは島を離れても「琉球舞踊は続けてよ」、「髪の根っこは染まらん」と故郷の大事さを説いていく。いっぽうで腕によりをかけて、「彼氏も心配する」ほどきれいにして、運命を信じて自分の人生を生きていきなさいと励ますわけだ。
ところが、最後にもう一度「明日は内地に行くんでしょ」で歌は終わる。最初のフレーズが心配して語りかけるような印象だったのに対して、最後の同じフレーズは、さびしいような、うらやましいような感じがするのはなぜだろう。何回か聴いていくうちに、このおばちゃんは、若いころ内地に行ったのではないかと気がつく。
そう思った瞬間に、この歌の本当の主人公は、おばちゃんになるのである。まるで、スターウオーズがルーク・スカイウオーカーから、ダースベーダーの物語に変わって行ったように。
「帰りは混んでるのが故郷」、「なんでなのかね運命は」といった歌詞は、じっさいの体験から来ていることがわかるのである。きっと、このおばちゃんは、若いころに内地に行って、何か事情があって島に戻ってきたのだ。夢破れての帰郷だったのかもしれない。明日島を出るこの娘に、若いときの自分を重ね合わせているのがはっきりとわかってくる。だから最後の「明日は内地に行くんでしょ」は、さみしさがこもったうらやましい響きがするのだ。
島を出て行く女子高生から、パーマ屋のおばちゃんへと歌の主人公が移動することで、歌はより普遍的な意味を持つ。地方から都会に出るのは、「ちゃんちきおけさ」や「故郷に帰りたい」でも歌われた近代の一大テーマだ。だから本土の私たちが聞いてもこの歌は魅力的なのだろう。